一橋大学経営管理研究科 ファイナンス研究センター

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銀行の流動性創出をどのように測るか?

文責: 安田 行宏


銀行は非流動的な貸付を企業などに行う一方で流動的な預金を預金者に供給しており、流動性の創出(Liquidity Creation)を行う経済主体である。この銀行の流動性創出機能は、 例えば金融危機時において企業の資金繰り問題に対して、一時的に大量に供給するなどし て破たんを阻止するなど重要な役割を果たす。しかしながら、この銀行の流動性の創出を具体的に測ることは基本的に極めて難しい。 この難題に対して、Berger and Bouwman (2009) は、銀行の財務データに基づき流動性創出を測る指標を構築した。

基本的な指標構築のアイデアは以下の通りである。まず、銀行の貸借対照表の全ての項 目に対して、銀行活動が流動性を創出する程度に応じて、流動的(liquid)準流動的 (Semi-liquid)、非流動的(illiquid)に分類する。 これはオンバランスシート上のみならず、デリバティブやローンコミットメントを反映するオフバランスシート上の項目に対しても 同様に分類を行う。 次に、流動性創出の程度に応じて、ウェイト付けを行う。例えば、企業への貸付(資産項目)は非流動的な資産であり、流動性を企業に創出しているのでプラ スの0.5となる。同様に、負債項目の要求払い預金も預金者に対して流動性を共有しているのでウェイトはプラスの0.5となる。 他方で、有価証券の保有(資産項目)は、流動性の資産であるが、貸付を行う機会を失うことで流動性の創出をむしろ阻害しているので、ウェイトはマイナスの0.5といった具合である。最後に、これらのウェイトで項目を乗じて合計した金額を流動性創出の指標として算出する。

Berger and Bouwman (2009)によると、1984年から2008年にかけての流動性指標は基 本的に増大傾向にあり、特にオフバランスシートを通じた流動性創出が大きいことを示し ている。また、銀行の自己資本の水準と流動性創出の関係については、大銀行においては、 規模の大きな銀行ほど流動性を創出していることを確認している。他方で、小銀行では、規模が小さな銀行の方が流動性創出を行っていることを確認している。Berger and Sedunov (2017)によると、銀行の流動性創出と実質的な経済成長(GDP)と正の相関関係 があることを発見している。 また、オンバランスの流動性創出指標は特に規模の小さな銀 行にとって重要であり、他方で、オフバランスシートのそれは大銀行にとって重要であることを実証的に確認している。



関連キーワード: 流動性創出、デリバティブ、ローンコミットメント、オフバランスシート

参考文献:

Berger, N.A., and Bouwman, C.H.S., 2016. Bank Liquidity Creation. Review of Financial Studies 22, 3779-3837.

Berger, N.A., and Sedunov, J., 2017, Bank Liquidity Creation and Real Economic Output, Journal of Banking and Finance 81, 1-19.


 
 
銀行間競争と銀行行動

文責: 野口 翔右


従来の金融論は主に銀行と借入企業の関係性に注目しており、銀行間の関係にはあまり注目してこなかった。しかし、1970年以降の 金融機関に関する規制緩和に伴い、銀行は市場競争原理に晒されるようになり、今日でも貸出金利や預金金利などさまざまな側面で 銀行は他の銀行と競争している。以下では、銀行間競争と銀行行動の関係に焦点をあてた研究を紹介する。

 まず、銀行間競争が銀行行動に与える影響を分析した研究では、Boot and Thakor(2000)は、銀行行動を貸出技術の選択として みなし、銀行間競争が激しくなると銀行はリレーションシップ型の貸出を行う傾向にあることを示した。これは、価格(この場合、 利子率)競争が激しくなると同質財を提供することによる損失が大きくなるため、差別化を行えるリレーションシップ型の貸出が 重要視されるというロジックに基づいている。

 一方、銀行行動が銀行間競争に与える影響を分析した研究では、Hauswald and Marquez(2006)は、銀行行動を情報獲得のための 投資水準としてみなし、情報獲得のための投資を行うほどスクリーニングの精度が上がる結果、競合する銀行はより大きな逆選択 の脅威に直面すること、すなわち情報獲得のための投資は、銀行間競争を弱めることを示した。この結果は、獲得された情報が ソフト情報であるとき、銀行間競争が激しいほどリレーションシップ型貸出が重視されるというBoot and Thakor(2000)のモデルと 整合的である。

 一方、上述の研究の前に提示されたInformation仮説によれば、市場において支配力の高い銀行ほど、すなわち銀行間競争の程度 が低いほど、借手を横取りされるリスクが小さいため、時間やコストのかかるリレーションシップ型貸出を行いやすいとされる。 これは、Boot and Thakor(2000)とは逆の帰結を意味する。これを踏まえてLove and Martínez Pería(2014)は53か国のデータを 用いて、どちらの仮説が実態に即しているかを実証分析した。分析の結果、競争度と資金調達可能性の間にある負の相関が、 資本市場の透明性によって弱まっていることから、Information仮説は棄却されると推論している。



関連キーワード:  市場競争、銀行貸付、リレーションシップバンキング

参考文献:

Boot, A. W., and Thakor, A. V. 2000. Can relationship banking survive competition?. The journal of Finance, 55(2), 679-713.

Hauswald, R., and Marquez, R. 2006. Competition and strategic information acquisition in credit markets. The Review of Financial Studies, 19(3), 967-1000.

Love, I., and Martínez Pería, M. S. 2014. How bank competition affects firms' access to finance. The World Bank Economic Review, 29(3), 413-448.


 
 
預貸利鞘の決定要因

文責: 山田 佳美


金融仲介機関の一つである銀行は、資金の最終的貸し手と資金の最終的借り手の間の資金のやり取りを円滑に仲介している。銀行は、 多くの資金の貸し手から主に預金の形で資金を集め、集めた資金を多くの資金の借り手へ貸し出す。そのため、銀行にとって預貸業務 からの収益は重要な収益源であり、預貸業務の収益性の指標の一つが預貸利鞘である。

預貸利鞘を決定する要因は様々あり、多くの研究がなされている。例えば、Entrop et al. (2015) では、預貸利鞘の決定要因として 市場の競争度、リスク回避度、コスト、金利リスクや信用リスク、貸出と預金の満期の違いから生じるリターンが存在することを 示している。特に、金利リスクと貸出と預金の満期の違いから生じるリターンについては、金融仲介機関が行う満期変換によって 生じており、このリスクとリターンが預貸利鞘に反映されていることを彼らは示唆している。

また、銀行は投資銀行業務や投資信託や保険の窓口販売などの預貸業務以外の業務を行っており、これらの業務も預貸利鞘に影響を 与える要因の一つである可能性がある。Valverde and Gernándes (2007) は、非利息収入を生む預貸業務以外の業務が預貸業務と 代替関係にあること、預貸業務以外の業務によって収益が得られることによって、預貸業務以外の業務と預貸業務の関係が生じている と示している。特に、預貸業務以外の業務によって得られた収益を預金市場あるいは貸出市場における競争力を獲得するために用い、 結果として預貸業務以外の業務の収益の増加が預貸利鞘を増加させることを示している。

預貸利鞘は規制の影響も受けうる。Birchwood et al. (2017) では、銀行部門への参入障壁や情報の透明性(財務状況の開示透明性) が預貸利鞘に与える影響に着目している。参入障壁が高いほど市場の競争が妨げられ、預貸利鞘が低下することを示している。また、 情報の透明性が低いほど情報の非対称性が大きくなり、預貸利鞘が上昇することを示している。



関連キーワード: 金融仲介機関、銀行、信用金庫、情報の非対称性

参考文献:

Birchwood, A., M, Brei., and Noel. M. D. 2017. Interest margins and bank regulation in central America and Caribbean. Journal of Banking & Finance 85, 56-68.

Entrop, O., Memmel, C., Ruprecht, B., and Wilkens, M. 2015. Determinants of bank interest margins: Impact of maturity transformation. Journal of Banking & Finance 54, 1-19.

Valverde, S. C., and Fernández, F.R. 2007. The determinants of bank margins in European banking. Journal of Banking & Finance 31, 2043-2063.