一橋大学経営管理研究科 ファイナンス研究センター

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「賢い」投資家ほど、専門家から投資アドバイスを求めるのか?

文責: 顔 菊馨


個人投資家は、機関投資家と比較して、金融に関する専門知識が相対的に欠如していることや情報劣位にあることがしばしば指摘されている。このため、金融知識が欠如している個人投資家には、専門家によるアドバイスが必要であると考えられる。

Rooiji et al. (2011)は、数学などの基礎知識や実務的な投資知識を含む金融知識全般が豊富であるほど、家族や友人から助言を求めるより、むしろ新聞、書籍、インターネットからの公的情報や専門家からのアドバイスを求める傾向があることを示している。 Bachmann and Hens (2015)も同様に、投資能力(investment competence)と金融助言への需要との間には正の相関があることを示している。なお、Bachmann and Hens (2015)の投資能力指標は、金融知識のみではなく、 代表性バイアスなどの投資判断において陥りがちなミスを回避する能力も計測していることが特徴的である。彼らはこうした投資能力が高いほど、自分ですべての投資判断を下すより、専門家に投資の意思決定を任せる傾向を持つことを示している。

また、投資パフォーマンスに対する影響における金融リテラシーと専門家のアドバイスの補完関係を示した先行研究もある。Gaudecker and Von (2015) は、合理的な個人投資家は金融知識が欠如していることを自覚し、 外部専門家からアドバイスを求めるため、金融リテラシーが高いグループと専門家からアドバイスを求めるグループの間では、投資パフォーマンスにおいて有意な差が見られていないことを示している。

以上の研究は、本来、専門家のアドバイスを求めるべきとされる金融知識が欠如した投資家より、むしろ「賢い」投資家のほうが積極的に専門家の意見を求め、この結果、より高い投資パフォーマンスを実現していることを示している。



関連キーワード: 金融リテラシー

参考文献:

Bachmann, K., and Hens, T. 2015. Investment competence and advice seeking. Journal of Behavioral and Experimental Finance 6, 27-41.

Van Rooij, M., Lusardi, A., and Alessie, R. 2011. Financial literacy and stock market participation. Journal of Financial Economics 101(2), 449-472.

Gaudecker, H., &and Von, M. 2015. How does household portfolio diversification vary with financial literacy and financial advice? The Journal of Finance 70(2), 489-507.


 


ノイズトレーダーは市場から淘汰されるのか?

文責: 柳樂 明伸


Friedman(1953)の安定的投機の議論に基づけば、ファンダメンタルに基づかない投資行動をとる非合理な投資家(以下、ノイズトレーダー)は、資産価格がファンダメンタルズ価値を上回れば売却し、 下回れば購入する合理的な投資家の裁定取引により市場から淘汰される結果、資産価格はファンダメンタルズ価値に収束し、この結果、ノイズトレーダーの行動は、資産価格に影響を与えないとされる。 しかし、以上の議論においては、合理的な投資家は十分な裁定取引を行うことが前提となっており、この前提が満たされない場合、ノイズトレーダーが利益を獲得し、市場に生き残りつづける可能性が指摘されている。

De Long et al.(1990)は、2期間からなる世代間重複モデルを用いて、市場に合理的な投資家と、将来の資産価格をそのファンダメンタル価値よりも高く評価する強気なノイズトレーダーが存在する時、均衡価格は、 ノイズトレーダーがより強気であるほど、市場におけるノイズトレーダーの割合が大きいほど、また、ノイズトレーダーの期待の変化における不確実性が大きいほど、ファンダメンタル価格から乖離し、 ノイズトレーダーの方が合理的な投資家よりも多くの利益を獲得することを示した。この結果は、ノイズトレーダーが存在することにより、ファンダメンタル価格から離れてしまうリスクが存在するため、 合理的な投資家はノイズトレーダーよりもよりリスク回避的であるときには、このリスクがあることで十分な裁定取引を行えないことに依っている。

Kyle and Wang(1997)は、自信過剰な投資家が、シグナルの分散を過小評価する結果、シグナルを過大に受け取ったと認識する場合、より多くの取引を行うようになり、そのため、 自信過剰な投資家の行動がクールノー競争におけるコミットメントとして作用することで合理的な投資家の取引を制限することを示した。また、シグナルにおけるノイズの割合が大きいときや投資家の自信過剰の度合いが強いときには、 合理的な投資家に比べて自信過剰な投資家が利益を獲得することがあることが示されている。



関連キーワード: 安定的投機、裁定取引、自信過剰

参考文献:

De Long, J. Bradford, et al., 1990. Noise trader risk in financial markets, Journal of Political Economy 98(4), 703-738.

Kyle, Albert S., and F. Albert Wang, 1997. Speculation duopoly with agreement to disagree: Can overconfidence survive the market test?, The Journal of Finance 52(5), 2073-2090.


 


専門家の助言は個人投資家の投資リターンに影響を与えるのか?

文責: 顔 菊馨


専門的なファイナンシャル・アドバイザーの役割は、十分な金融知識を持っていない個人投資家に対して、ポートフォリオの歪みを是正し、リスク性資産への投資によって効率よくリターンを獲得するよう、助言することにあるとされている。 金融機関からの助言や金融機関への依存度が、個人投資家の行動にどのような影響を与えるかを分析した研究として、Hackethal et al.(2012)とKramer(2012)が挙げられる。

Hackethal et al.(2012) は、銀行系または独立系のファイナンシャル・アドバイザーから助言を得た投資家と、どちらの助言も得ず、自分で資産運用する投資家の特徴、および投資パフォーマンスを、 ドイツの大手ブローカーおよび大手銀行の持つデータを用いて比較検証した。その結果、助言を求める傾向が強いのは、中高年の富裕層で投資経験の長い女性投資家であることを示している。 また、銀行系または独立系のいずれかのファイナンシャル・アドバイザーから助言を受けた個人投資家のポートフォリオの方が自分で資産運用をする投資家のそれよりリスク調整後リターンは劣後することを示している。この傾向は、 銀行系からの助言を受けた方が、独立系からの助言を受けた場合よりも顕著である。これは、助言を受けた投資家は頻繁に取引を行うため取引コストが高くなることに起因しており、助言者のインセンティブ(取引額に応じたコミッション)と整合的である。

これに対し、Kramer(2012)は、銀行から助言を受けた投資家と自分で資産運用する投資家とを比較し、リスク、リターン、資産構成など、様々な面において、助言の効果がどう現れたかについて、オランダのデータを用いて実証し、 銀行からの助言はリターンの向上にはつながらないが、分散投資によるリスク削減に資することを示している。これは、助言を受けた投資家のポートフォリオには、株式よりも、投資信託などの複合的な金融商品が多く組み込まれていることに起因している。



関連キーワード:個人投資家、ポートフォリオ

参考文献:

Hackethal, A., Haliassos, M., and Jappelli, T. 2012. Financial advisors: A case of babysitters?.Journal of Banking & Finance 36(2), 509-524.

Kramer, M. M. 2012. Financial advice and individual investor portfolio performance. Financial Management 41(2), 395-428.


 


保険リテラシーは金融リテラシーと関連しているか?

文責: 顔 菊馨


「人生100年」時代を迎える日本では、個々人にとって、貯蓄や投資による資産運用を行うことは重要である。一方で、老後生活の資金を確保するため、年金保険や生命保険に加入することの重要性も高まってくる。 これまでの日本国内の先行研究では、個人の生活設計に関連する金融リテラシーに注目するものは多いものの、保険リテラシーに関するものは比較的に少ない。そのうち、日本の生活者を対象とした代表的研究は2本あり、 いずれもどのような要因が保険リテラシーに影響を与えるのか、保険リテラシーと金融リテラシーとは関連しているのかについて分析している。

佐々木(2017)は、年金リテラシーに注目し、男性で、若年層で、金融資産保有額が少なく、国民年金未納であるほど、年金リテラシーが低いことを示している。さらに、彼は年金リテラシーが低い人は金融リテラシーも低いことを明らかにした。 ただし、従来の金融リテラシーに関する研究では、女性の方が金融リテラシーは低いことが指摘されていることに対して、同論文では、男性の方が年金リテラシーは低いことが示されている。

家森(2017)は、客観的な保険・金融リテラシー指標に加えて、保険・金融リテラシーに関する自己評価の質問も行っている。 その結果、まず、リテラシーに関する自己評価については、保険知識に詳しいと自己評価している調査対象は1割弱にとどまり、大多数の人は自らの保険知識が欠如していると認識していることが示されている。また、金融リテラシーと保険リテラシーの自己評価には、 正の相関があるが、若年層において、金融知識と保険知識の自己評価の間の差が大きく、保険知識の不足が目立っていること、さらに、客観的な金融リテラシーについては家族構成が影響していないのに対し、客観的な保険リテラシーは既婚か未婚かが影響していること、 年収が大きいほど客観的な保険リテラシーも客観的な金融リテラシーも高いことが示されている。

この2本の研究は、日本人の生活設計のための保険・金融知識の不足を示しており、金融経済教育のみならず、保険知識を身につける必要性を明らかにしている。



関連キーワード: 金融リテラシー、金融教育

参考文献:

佐々木一郎. (2017). 年金リテラシーと金融クイズ. 生命保険論集, (201), 111-131.

家森信善. (2017). わが国の生活者の金融・保険リテラシーと保険加入行動: 2016 年・生活保障に関する調査をもとに. 生命保険論集(金融・保険リテラシー特別号), 37-73.


 

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